ゲノム科学と
がん医療のこれから
ゲノム科学とがん医療のこれから
The Future Cancer Medicine with Genomics
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アーカイブ動画
開催概要
東京大学新領域創成科学研究科が進めるゲノム科学とがん医療が融合を進める柏の葉ではまちづくりも変わりつつあります。学融合の現場の研究者が、ゲノム科学が変える近未来の社会のイメージをビビッドに語ります。
開催日時: 2022年11月19日(土)15:00-16:40
開催形態: オンライン配信
参加費: 無料
申込み: 受付終了
主催: 東京大学大学院新領域創成科学研究科
プログラム:
15:00 開会挨拶
パネルディスカッションの趣旨説明
東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長
同研究科 社会文化環境学専攻 教授
15:05 パネルディスカッション「ゲノム科学とがん医療のこれから」
ファシリテーター:
東京大学大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 准教授
パネリスト:
東京大学大学院新領域創成科学研究科 研究科長
同研究科 社会文化環境学専攻 教授
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授
同研究科附属生命データサイエンスセンター センター長
国立がん研究センター 先端医療開発センター 副センター長
東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 客員教授
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 准教授
科学技術振興機構 NBDC事業推進部 研究員
16:35 閉会挨拶
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授
同研究科附属生命データサイエンスセンター センター長
※ プログラムは変更になる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
パネリスト講演動画
【講演1】鈴木 穣「ゲノム解析技術の進展」
【講演2】土原一哉「進化しつづけるがん医療の現場から」
【講演3】鈴木絢子「未来のゲノム社会に必要な人材育成ーDSTEPを例にしてー」
【講演4】川嶋実苗「ゲノム時代の法的・倫理的課題」
【講演1】
「ゲノム解析技術の進展」
鈴木 穣
(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授/
同研究科附属生命データサイエンスセンター センター長)
こちらをクリックすると要約をご覧いただけます。
現代の医療は、「がん」だけでなく様々な疾患に立ち向かって行かなくてはなりません。最近の10年でゲノム解析技術は劇的に進展し、個人個人のゲノムを安価に解析できるまでになっています。ヒト一人のゲノムには約20,000個もの遺伝子がコードされていますので、どの遺伝子が壊れているかを個々人で調べることによって個人ごとに医療を最適化して提供できる時代が到来しつつあります。
東京大学大学院新領域創成科学研究科と国立がん研究センターは、新領域創成科学研究科が柏キャンパスでの活動を開始した時から共同して、ゲノム科学とがん医療を融合する挑戦を進めてきました。そして、東京大学柏IIキャンパスに新時代に対応する新しい拠点を整備し、そこで開発される新技術をがん医療に実装していくことを目指しています。
一つのがんの病巣も均一ながん細胞の集団では決してなく、個々の細胞レベルで詳細にがん細胞を調べると同じがんの病巣のがん細胞であってもがん細胞一個一個に明らかに違いがあります。がんという組織が内含する複雑さを横目で睨みながら、治療を最適化してがんという病気に立ち向かう時代になりつつあります。
一方、進化するゲノム解析技術は健康についても多くのことを私たちに教えてくれつつあります。健康と病気の間にある未病の状態を対象とする医療をゲノム科学によって充実させることによって、これから重要性が増すであろう予防医療のしっかりした基礎をつくることができるはずです。このような流れを途切れさせることなくさらに展開していくために、若手研究者の育成への注力と海外の研究者とのさらなる連携を進めています。がんをはじめ様々に医療と融合したゲノム科学が社会に実装され貢献していく拠点として柏の葉地区をこれからもご注目いただければと思います。
【講演2】
「進化しつづけるがん医療の現場から」
土原 一哉
(国立がん研究センター 先端医療開発センター 副センター長
東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 客員教授)
こちらをクリックすると要約をご覧いただけます。
遺伝子の情報が書き換えられたり(変異)、情報を読み出すタイミングや量(発現)の異常が「がん」の原因となります。約50年前に最初のがん遺伝子が発見されて以来、今では1,000を超えるがん遺伝子が発見されています。2000年頃よりがん細胞特有の挙動の原因となっているタンパク質をピンポイントで制御し、がん細胞だけを攻撃する分子標的薬が実用されるようになりました。
がんという病気は患者さんお一人お一人で異なります。がん特有のカギ穴(遺伝子変異)にあったカギ(分子標的薬)を準備し、がんの生物学的な特徴にもとづいて治療戦略を考えていくプレシジョンメディシン(精密医療)によって個別化医療が実現しています。特に手術に向かない進行がんに対する治療法としてプレシジョンメディシンの有効性が確認され、がん遺伝子パネル検査が保険診療となっているなど、従来の臓器ごとに推奨される抗がん剤による治療に加えて新しい選択肢となっています。
一方、がんゲノム医療では治療結果の解釈にはなお多くの専門家が集まるエキスパートパネルによる検討が欠かせません。そしてゲノム科学にもとづくがん医療は今後もさらなる進展が続くと予想されます。そこで、全国のがんゲノム医療機関が連携するとともにがんゲノム情報と臨床情報を集めたがんゲノム情報管理センター(C-CAT)が国立がん研究センターに設置され、がんゲノム医療の研究開発に役立てられています。
これからのがんゲノム医療では、患者さんのがんだけを診るのではなく患者さんを全人的に捉えて、場合によっては患者さんの環境因子も含めてがんを診て新薬を開発していくことになると考えています。また、治療の選択肢が増えることから、どのような治療をどのような流れで行っていくか治療戦略をリアルタイムで最適化する技術も必要となります。多層オミクス解析によって収集される膨大な情報を適切に研究と治療に活用する技術と人材、社会倫理の整備も必要になると予想しています。
【講演3】
「未来のゲノム社会に必要な人材育成ーDSTEPを例にしてー」
鈴木 絢子
(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 准教授)
こちらをクリックすると要約をご覧いただけます。
細胞のゲノムに変異が生じて細胞が異常に振る舞うようになるのが、「がん」の原因です。がんという病気に立ち向かうためには、様々な階層(ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、フェノーム)での包括的な解析(多層オミクス解析)によってがんの全体像を知り、がんという生命現象を理解することが必要になります。そして、多様ながんに対してがんそれぞれの特徴を抽出することができれば、それぞれのがんに最適な治療を選択する個別化医療が可能となります。
例えば、肺腺がんのがん細胞にはEGFR (Epidermal Growth Factor Receptor)の変異が多く、EGFR阻害薬が効果的です。また、新しい解析技術によってがんの新しい様々な側面が次々に明らかとなって、より効果的な治療の戦略を立てることが可能になりつつあります。例えば、新しいロングリードシークエンス技術によって、これまで捉えられていなかった複雑なDNAの異常を見出すことができ、さらにいずれのDNA鎖にがんの原因となる変異があるのかがわかるようになってきています。
続々と開発される新技術を活用し、また、新技術によって得られる膨大なデータを処理して治療に役立つ戦略を組み立てるスキルをもつ人材を育成することが急務となっています。この状況に対応するため、私たちは博士課程の学生を対象とするDSTEP (Data Scientist Training/Education Program)を推進してきました。DSTEPでは、講義で新しい技術の原理と方法を学習し、演習で技術・スキルを習得し、続いて研究の現場での実践的なOn the Job Trainingによりスキルをブラッシュアップし、ゲノム社会で即戦力となれるプロ人材を育成しています。
【講演4】
「ゲノム時代の法的・倫理的課題」
川嶋 実苗
(科学技術振興機構 NBDC事業推進部 研究員)
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何らかの原因で遺伝子に変異が生じて細胞が無秩序に増殖してしまうのが「がん」という病気であり、どのがん遺伝子に変異が生じたかによってがんの発生の仕方や進展が変わります。がんの分子機構を明らかにして診断・予後予測・治療方法の開発を目指すがん研究では、患者さんからご提供いただく末梢血、検査や手術で摘出された病理組織と、カルテに記載された臨床情報、検査データなどを合わせて分析が行われます。
がんに関する研究を行うためには、国によって定められた法律、指針などのルール、特にヒトを対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針と個人情報の保護に関する法律を遵守する必要があります。研究実施に先立ち、研究者は25項目にわたる研究計画書を作成します。特に研究対象となる方々の負担とリスクを最小限にする対策を講じることが求められます。
次に、研究者が所属する研究機関等の倫理審査委員会が、研究対象者の観点も含めて倫理的、科学的視点から研究計画を公正に評価します。承認された研究計画は、研究者が所属する研究機関の長によって許可され実施されます。研究者は研究対象となる方々に対してインフォームドコンセントを行い、研究の目的、方法に加えて研究対象者の方に生じる負担と予測されるリスク、利益など21項目について説明し、研究参加への判断に必要な情報を提示します。ご提供を受けた試料、カルテ情報、検査結果等を用いて、研究計画書に沿って研究が実施されますが、研究計画などを変更する場合には、改めて倫理審査委員会の承認と所属機関の長の許可が必要です。このようにして実施された研究の成果は学会発表や学術論文として発表されるとともに、研究データは公的なデータベースを通じて世界中の研究者が客観的に評価できるよう共有され、その価値が最大化されています。
研究に使用される情報、データの多くは個人情報です。カルテに記載されている診療情報は要配慮個人情報であり、網羅的なDNAの塩基配列は個人識別符号に該当します。それらの情報を国際共同研究等において共有する場合は「外国にある第三者への提供」にあたるため、日本と同等の水準の個人情報の保護制度を有することが求められます。、現在、世界中で個人情報の保護制度の整備が進められている所であり、個人情報の取り扱いのグローバル化への対応が、がん研究の一つの課題となっています。
チラシは下記よりダウンロードできます。